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ウイスキーの香りの源

世界中で造られているウイスキーの種類の多さが、どのスピリッツよりも香りの種類が豊富ということを証明しています。このことは、地域で異なる製造過程における様々な要因で説明がつきます。ウイスキーの香りが生まれる要因:

 

1) 穀物 / 穀粒

ウイスキーは小麦、ライ麦、トウモロコシと大麦(モルト)で作ります。シングルモルトウイスキーのように単一の穀粒のみで作るものと、バーボン・ウイスキーのように異なる穀粒を混ぜて作るものがあります。地元原産、または輸入された穀粒で作るため、その土地のブドウやワインの特徴を物語る「テロワール」のような概念はウイスキーにはありません。穀粒の質はデンプンの量と香りの力で変わります。

大麦(モルト)を原料とするウイスキーはトーストの香り、トフィー風味の穀物が感じられます。トウモロコシを原料とするウイスキーはバニラやメープルシロップの甘い風味。ライ麦を原料とするウイスキーはコショウのような強いスパイシーさ。小麦を原料とするウイスキーは蜂蜜をかけた全粒パンのような風味があります。

 

2) 水

ウイスキー造りには水が命です。蒸留所では水を大量に使うため、年中通して水を欠かす訳にはいきません。水は小川、河、湖、公共井戸など、様々な所から調達します。水は麦芽製造、糖化、設定したアルコール度数への希釈といった工程のほかに、スチル(蒸留釜)を熱したり、蒸気を液体に変えるコンデンサーを冷やすのにも使います。当然のこと、出来上がるウイスキーに害が及ばないように、清潔で安全な水質が重要です。水に含まれるミネラルとpH値は発酵過程で香りを濃縮する際に重要な役割を果たします。水がウイスキーの香味に大きな影響を及ぼすと誤解している消費者がいますが、実際には水の種類の影響は2%以下というのが、ほとんどの蒸留技術者に共通する考えです。一例を挙げると、アイラ島産ウイスキーのピーティー(薫香)の特徴は地元の水によるものではなく、麦芽を乾燥させる際にピート(泥炭)を燃やして生じる火からくるものです。

 

3) 麦芽製造

麦芽製造は麦を発芽させ、発酵性のないデンプンを発酵性の糖に転化することです。これにより、その後加える酵母の働きでアルコールが生まれます。発芽製造の工程は二つあります。一つは麦を数日間水に浸けて発芽させる浸麦。もう一つは熱で麦を乾燥させ、最適なデンプンの量が糖に転化してから発芽を止めるキルニング。この乾燥させる過程でアミノ酸と糖が反応し、トーストやビスケットの香味が生まれます(メイラード反応)。

スコットランド、特に木々が少ない島々では、昔からピートを焚いて生じる熱を使っています。

ピートは水はけの悪い湿地帯でコケ類、草や灌木などの分解されない植物が堆積して形成されます。キルン(麦芽乾燥塔)でピートを焚いて生じたある程度の煙からウイスキーにフェノールとスモーキーな香味が加わることがあります。

アイラ島産のモルトウイスキーの海藻、タール、ヨードといった典型的な香りの要因の一つは、ピートに含まれている分解できない海水植物と海塩によるものです。オークニー島の泥炭のほとんどはヘザーで形成されているため、花を思わせるスモーキーさがウイスキーに加わります。高地のピートの特徴は場所により異なりますが、分解できない木々をより多く含んでいるため、木を燃やしたような煙の香りがします。

 

4) 発酵

発芽した大麦を粉砕して、温水と混ぜて残りのデンプンを糖に転化します。これによりウォート(麦汁)と呼ばれる甘い糖液が生まれ、これに酵母を加えて発酵が始まります。キノコと同じ真菌の酵母は糖を栄養とし、アルコールと二酸化炭素を生成するだけでなく、様々な香気成分も生成します。例えば、フルーティーな香り(柑橘類、リンゴ、梨、パイナップル、バナナなど)、花の香り(バラ、ラベンダー、スミレなど)、穀物のような香り(麦芽、ビスケットなど)、植物の香り(サヤヌカグサなど)があります。

全ての酵母が同じではなく、種類によって香気成分が異なります。柑橘類、リンゴや梨のような新鮮なフルーティーな香りを出す酵母株があれば、プラム、アプリコットやベリーのような熟した香りを出すものもあります。

蒸留所が使う酵母の種類は広く知られていますが、どの蒸留所も配合する比率や組み合わせと同様に酵母株の特質をしっかりと守っています。このようにして作り方はトップシークレットとなります。

ウイスキーの香味の大部分がこの発酵過程で形成されます。使用する発酵株の量、発酵時間と温度がウイスキーの味の重要な決め手となります。発酵後、ウォートはウォッシュ(もろみ)と呼ばれ、ビールに似た味がします。

 

5) 蒸留

スチル(蒸留釜)でウォッシュを熱して、含まれている大部分の水を除去します。次に、蒸発と凝縮によりエタノールを濃縮し、香りを凝縮します。ウォッシュにはエタノールをはじめ、種類が異なるアルコールと化合物が含まれており、沸点も異なるということに蒸留の過程の複雑さが表れています。原酒に個性と香味をもたらす好ましい成分がある一方で、蒸留過程で可能な限り徹底的に取り除く必要がある好ましくない成分や不快な香味があります。

ポットスチル(単式蒸留)による蒸留は、フォアショッツ(前溜)、ミドルカット(中溜)、フェインツ(後溜)の三つがあります。フォアショッツ、別名ヘッドは沸点が低く、発揮性が最も高い成分から成ります。フォアショッツに含まれる成分は二日酔いを酷くする主な要因とされるアセトアルデヒド、洗浄液やネイルリムーバーに使われるアセトン、肝臓に非常に悪く、失明につながりうるメタノールがあります。そのため、個人宅で作られているアルコール飲料や上記の成分でできているアルコール飲料を口にしないことを強くお勧めします。

フォアショッツの次はミドルカット、別名ハートが来ます。蒸留技術者の狙いは、ここに含まれる飲用アルコールと様々な果物の香り(青りんご、梨、パイナップル、バナナ、イチゴ、メロン、桃やドライフルーツ)を生成する化学物質のエステルを一緒に残すことです。草や穀物を思わせる香りが続き、のちに柑橘類の香りへと変わります。コンデンサーから通って出てくる溜液の流れを変えてハートを取り出し、保存してから熟成させます。これがウイスキーになります。

沸点の低いアルコールが蒸発すると、水、タンパク質、炭水化物と沸点が高く、発揮性の低いアルコールが残ります。これをフェインツまたはテールと呼びます。フェインツは溜液のうち、発揮性のある最後の部分です。フェインツでは、革を思わせる非常に心地よい香りやタバコの香りから始まり、蝋や生臭さといったウイスキーでは通常受け入れられない香りへと、蒸留の終わりに近づくにつれてゆっくりと香りが増していきます。一般的にフェインツはピーティーなウイスキーに重要なフェノールとスモーキーな香りが豊富です。そのため、ピート香が効きつつ、フェインツの不快な香りがしないように二番目のカットのタイミングには慎重さが求められます。

蒸留の目的はフォアショッツとフェインツとの間のハートを分けることですが、フォアショッツとフェインツには、出来上がるウイスキーに好ましい香味を生み出す物質が僅かながら含まれています。そのため、フォアショッツとフェインツに含まれるそれらの物質を除去せずにハートと一緒に抽出できるように溜液をカットする腕が蒸留技術者に求められます。

多くのスチルが銅でできているため、不快な味をもたらす硫黄化合物がアルコールから除去されます。最もシンプルな蒸留器は、加熱釜と不純物を取り除いたアルコールを集める器がそれぞれ一つあるポットスチル(単式蒸留器)が一般的に知られています。全てのスコッチ・モルト・ウイスキーがポットスチルで蒸留されます。連続式蒸留器の名でも知られているコラムスチルは、スコッチ・グレーンウイスキー造りによく使い、一般的にバーボンや他のアメリカンウイスキー造りにはこのタイプを使います。長い塔状のコラムスチルは、ポットスチルと連結しているかのような動きをします。

ポットスチルは現代風のスチルに比べると非常に効率が悪いですが、麦芽の風味を多く残せる利点があります。単式蒸留器で造るニューメイク・スピリッツは、平均してアルコール度数70度で、連続式蒸留器の場合は一般的に95度で取り出します。

アルコールの蒸気が蒸留釜の銅と接触するほど原酒の香味は軽くなります。ポットスチルの大きさ、形や設計が原酒に大きく影響し、高さも大きく関わります。高さのある釜は銅の表面が広く、蒸気が上がりにくく、逆流します。高ければ軽い香味になり、逆に低ければ、重くてリッチな香味になります。

蒸留の時間など、原酒に影響する要因は他にもあります。蒸留技術者による熱の調整の仕方や速度の上げ下げで特徴が変わります。遅い速度で時間をかけて蒸留するぶん、銅と接触する時間が長くなり、軽い原酒が生まれます。

 

6) 熟成

ニューメイク・スピリッツの熟成はオーク樽で行います。オーク樽での熟成過程におけるウイスキーの味への影響は最も大きく、樽の木材の影響は75%に上ることがあります。

オーク樽内での熟成は、蒸留と木材に含まれる様々な物質が合わさって起こる複雑な化学反応の結果です。木材にはタンニン、リグニン、グリセリン、多糖、脂肪酸と芳香族アルデヒドが含まれています。リグニンが分解され、アルコールがアルデヒドに変わり、熟成過程の早い段階でバニリン(バニラの風味)が現われます。果物や花の香りがするエステルはさらに時間が経ってから現われ、その特徴が最もはっきりと感じられるのは10年から15年間熟成したウイスキーです。若いウイスキーの香りは麦芽に似ており、梨のようなほのかなフルーティーさがあります。25年以上熟成させたウイスキーは、時間をかけて染み渡ったラクトンの影響で上品なココナッツを思わせます。

ウイスキーの年齢は樽内での熟成期間で決まります。木樽でのみ熟成し、瓶詰めしてからは熟成しません。樽とウイスキーとの触れ具合、化学構造と味の変化が表れます。何年も瓶に入ったままのウイスキーは希少価値があるかもしれませんが、それと同等の期間木樽で熟成した新しいウイスキーよりも古い訳でもなく、必ずしも良いとも限りません。樽の中で10年または20年寝かせたからといって必ずしもウイスキーが良くなる訳ではありません。ウイスキーの本来の特性とオーク樽の特徴との調和がとれた時が瓶詰めする理想のタイミングです。

熟成にかける時間は大切な要素ですが、樽の貯蔵庫の環境と樽そのものも非常に重要です。木の気孔を通して樽に入る空気も影響します。海に近い場所で熟成したウイスキーは海の香りが染み渡っているため、塩味が感じられることがあります。暖かい環境では木樽が膨張し、液体体積が増えます。つまり、ウイスキーと樽がより接触するということです。また、原酒が減る蒸発率(天使の分け前)が高くなります。樽に外気が入ることで原酒が酸化し、フルーティーな香味を生み出すエステルが生成されます。逆に、寒い環境では気孔が収縮し、熟成の速度が遅くなります。一般的に、暖かい環境で熟成したウイスキーは比較的若い年齢で瓶詰めします。

一方、寒い環境で熟成したウイスキーは、それよりも数年かけて理想のバランスに達するまで待ってから瓶詰めします。

ウイスキーの濃度は原酒と樽との接触にも影響します。低濃度が理想ですが、それには多くの樽と貯蔵庫のスペースが必要になります。ウイスキーの熟成にはアルコール度数63.5度が標準的な濃度とされています。

木樽はウイスキーの味に大きく影響します。ここからは木樽の特徴の違いを見ていきましょう:

 

  1. A) 木材の種類

オーク樽のみを使う理由は二つあります。一つはオークの密度が高く、ウイスキーが漏れません。もう一つは樽を焦がしたり焼いた際に原酒に色がつき、甘味が増してトースト香が生まれます。

アメリカンオークまたはアルバオーク(Quercus Alba)とヨーロピアンオーク(ヨーロッパナラ、Quercus Robur とフユナラ、Quercus Petraea)の二種類が主に使われています。

アメリカンオークは北米で見られる成長の早いオークで、バーボンの熟成によく使います。密度が非常に高く、バニリン成分が多いため、この種類の樽で熟成させたウイスキーの典型的な特徴はバニラとキャラメルの香味です。

ヨーロピアンオークはヨーロッパ全土、遠くはハンガリーからロシアで見られます。アメリカンオークに比べると成長が遅く、密度も少し低いです。タンニンが多いため、ほのかな渋みとスパイシーさのあるウイスキーが生まれます。ほのかな渋み、スパイシーさと木材の香味が典型的な特徴です。

 

  1. B) 古樽

多くのスコッチウイスキーの熟成には、ウイスキーを作る前にワインか蒸留酒を熟成させた樽を使用します。若いヨーロピアンオーク樽の風味はウイスキーを熟成させるのには強すぎるため、他の原酒を熟成させて特徴が和らいだ樽を使用します。

ワインまたは蒸留酒を一度熟成させると木材の強い風味やタンニンの渋みがなくなりますが、もとの原酒の風味や色は木材に伝わり、ウイスキーと混ざり合います。

例えば、シェリー酒のような酒精強化赤ワインの樽を使うと、シェリー酒の典型的な暗い色とともに、干しブドウ、プラム、ナッツやワインのタンニンの特徴がウイスキーにはっきりと表れます。スコッチウイスキーがオーク材とシェリー酒のどちらからシェリー酒の特徴を受けたかを調べるために、科学者がスコッチにシェリー酒を加え、シェリー樽内での熟成と同じ反応か出るか確かめたところ、結果は同じではありませんでした。同様に、未使用のヨーロピアンオーク樽で熟成させても異なる結果が見られました。シェリー酒の特徴はシェリー酒からくるもので、これに加え、酸化、シェリー酒と木材との接触、オーク材に含まれる成分の変化も影響しています。

歴史を振り返ると、ウイスキーの熟成に使用するヨーロピアンオークは元々、ほとんどの場合、シェリー酒またはポートワインの酒精強化ワイン用として使用されていました。イギリスは世界最大のシェリー酒の消費国で、長年に渡りシェリー酒が樽に入れて運ばれてきました。

その樽がスコットランドに伝わり、ウイスキーの熟成に大変活用されるようになりました。

今日、シェリー樽の需要が非常に高まり、ウイスキーの樽用としてシェリー酒を造るスペインのワイナリーも出てきています。とは言え、シェリー酒の消費量が少なく、ウイスキー業界でシェリー樽の需要が高まっており、蒸留技術者は他の選択肢を探しているのが現状です。

バーボン・ウイスキーの歴史は異なります。未使用のオーク樽での熟成が義務付けられており、それ以前に他のお酒に使うことはできません。

今日ではバーボン造りに使用した大量のアメリカンオーク樽が酒精強化ワイン用の樽に代わって、スコッチウイスキーの熟成用の古樽としてスコットランドに運ばれています。

1990年の後半、スコットランドで「フィニッシュ」、「二重熟成」という新たな手法が生まれました。ウイスキーを別の古樽に移して熟成を終わらせ、その前に熟成させたワインまたは蒸留酒の特徴を合わせてより複雑にするのが目的です。この手法で熟成させたウイスキーはパッケージに「ウッドフィニッシュ」と表示して販売されることがあります。

 

  1. C) チャーリングとトースティングの度合

樽造りでは内側を火で焼きます。熱は内側を形作るだけでなく、木材に含まれているデンプンを糖に転化する役割もあります。カラメル化し、フルフラール(アーモンド)、マルトール(トースト)、シクロテン(カラメル)といった発揮性香気物質に変化します。リグニンも同様で、アルデヒド、フェニルケトン(バニラ)、グアイアコール(煙たさ)、オイゲノール(クローブ)やその他の香気性物質に変化します。

表面がひび割れし、ワニの皮のような見た目になるまで木材を焼きます。焼いた樽の内側は黒く、多くの灰が残っています。

ウイスキーの色が暗くなるのはこのためです。焼けた木材はカラメルや蜂蜜を思わせる甘い香味をもたらします。これは強く焼いた際に木材に含まれている糖がカラメル化するためです。チャーリングを施すと割れ目が生じて、原酒がより木材に浸透しやすくなります。

トースティングは木材の表面だけでなく、内側にも焼き色をつけます。色はつきますが、木材は変形しません。チャーリングを施す樽に比べて、トースティングはもっとやさしく加熱します。

トースティングした樽は薄い色に仕上がるため、ウイスキーにさほど色はつきません。ヨーロピアンオーク樽は焼き具合が軽く、アメリカンオーク樽の焼き具合は非常に強いです。

 

  1. D) 樽の大きさ

樽の大きさも出来上がるウイスキーの特徴に影響します。一般的に小さな樽は大きな樽よりも熟成が早いです。これは大きな樽よりもウイスキーと樽材との接触面積が大きいためです。小さい樽で造るコストは高い一方で、大きな樽の方が上品に熟成する、と多くの人が言います。

 

  1. E) 樽の再利用

最後に、何度も再利用される樽の特徴を紹介します。樽を使う回数が増えるほど、ウイスキーが樽から受ける風味の影響は小さくなります。

ほとんどの場合、原酒を注ぐ前に樽を若返らせます。蒸留技術者はリチャーまたはトースティングを施す前に樽の裏面をこすり、木材に生気を与えます。これによりバニラとキャラメルの香味がよみがえりますが、スパイシーさが増します。このように手入れした樽は100年間はもちます。

シングルモルトを初めて入れる新樽をファーストフィルと呼び(とは言え、その前にシェリー酒、ポートワイン、バーボンなどを熟成させている場合がある)、樽にたくさん残っている最初の原酒の影響が強く表れます。二回目の樽詰めはセカンドフィルと呼び、原酒への影響は小さくなります。樽は三、四回まで使えますが、その後は樽の風味はほぼなくなります。

樽の製造コストはウイスキー製造の総費用のかなりの部分(約10~20%)を占めます。ウイスキー業界で樽の需要が高まり、樽の価格が値上がりしています。そのため、蒸留技術者が樽を何度も繰り返し使うのも納得できます。しかし、コスト面だけが理由ではなく、ウイスキー業界でよりスパイシーな香味のある若返らせた樽の需要があるからです。

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